あれから20年、8ヵ国の多国籍メンバーと
ともに広島へ

中 村 里 美 2006.September(PlazaPlaza76号 ハッピートークNo.3)

昨年7年ぶりに多国籍日本語朗読劇「トンボが消えた日」の復活公演を行いました。そして、今年の夏もまた8ヵ国の出演者が舞台に立ちます。「トンボが消えた日」は、「二度と再び自分と同じ辛い思いを地球上の誰にもしてほしくない」と、世界の平和を願って語って下さった被爆者の方々の体験とメッセージを語り継いでいく朗読劇です。

 先日、7月22日の公演を前に、事前学習のためアメリカ、イタリア、スリランカ、ウクライナ、スウェーデン、中国、韓国、日本の出演者と共に広島を訪れました。被爆者の方々のお話を伺い、平和資料館を訪れ、改めて私にとっての広島を感じながら平和公園を歩きました。

 思えば20年前、日米協力の草の根プロジェクト「ネバー・アゲイン・キャンペーン(通称NAC)」の第1期民間大使として渡米することになった私は、全国から選ばれた他の6名のメンバーと共に、初めて広島を訪れました。

 NACとは、アメリカのマサチューセッツ州にあるバークシャー・コミュニティ・カレッジのレイスロップ教授夫妻と元中学校教師だった北浦葉子が始めた活動です。日本の若者が単身渡米し、アメリカの家庭にホームステイしながら、小・中・高校や教会を訪れ、日本文化の紹介を兼ねた原爆映画の上映会を行い、被爆者のメッセージを伝えていくプロジェクトで、今も2年に1回募集が行われ、今現在第9期生が渡米して活動しています。

 英語力は二の次で「度胸と愛嬌と根性」と、なぜか声が大きいことというのが審査基準という、ちょっと変わったこの活動に応募した当時の私にとって、広島・長崎は歴史の教科書の中に出てくる過去の出来事でしかありませんでした。若者らしい何かにチャレンジしたい欲求をもってはいたものの、改めて平和とは何か?などと考えてみたこともありませんでした。

 20年前のあの日、戦後40年以上たった広島と長崎を訪れ、初めて被爆者の方々のお話を伺い、当時37万人以上の被爆者の方が生きている現実を知りました。そして、東京の自分の住む町にも280人以上の被爆者の方がいらっしゃり、家から歩いて20分程のところに広島の被爆者の方が住んでいることを知る中で、少しずつ広島・長崎が自分にとって近づいていったように思います。その時、キノコ雲の下で何が起きたのか? 証言者として語る被爆者の方々のお話を聞きながら、「一体戦後生まれの私に、そして被爆体験のない私に何ができるというのだろう?」と不安になり、逃げ出したい気持ちにかられた日々を思い出します。

 「苦しみや、失ったものの意味があるとすれば、一人でも多くの人に被爆体験を伝え、自分と同じ苦しみをする人が二度とこの世に存在しないようにと願うばかりです」と語るおばあさん。自分の孫が何人いるか忘れているのに、8月6日の記憶だけは鮮明で、その時の様子を事細かく語って下さったおじいさん。胸をはだけ、乳癌で手術した傷跡を私に見せ、「左の乳房がないのよ」と叫びながら放射能の恐ろしさを語る方々の声は今も耳から離れません。朝鮮人被爆者の李さんは、「被爆という極限状況の中でも差別が行われていたということ、そして、今でも多くの朝鮮人被爆者がいるということを忘れてもらっては困る」と激しい口調で語った後、「もっとリラックスして、アメリカで一人でも多くの友達を作ってこようという気楽な気持で行ってきなさい」と言って励まして下さいました。

 「伝えなければ」という私の中の気負いは、多くの被爆者の方々との出会いの中で、次第に「伝えたい」という思いへと変わっていきました。

 あれから20年……。振り返ると、あの時の体験は、その後の私の人生の原点となっていると思います。

 戦後生まれが人口の8割を占めるようになった日本。未来への責任をもつためにも、過去をしっかりと見つめ、戦争で犠牲となった罪のない人々の命を無駄にしないためにも、戦争の悲しみや苦しみから目を背けることなく、二度と再び同じ悲劇が起きることのないように、そこから多くを学ぶ必要があると思います。

  憎しみの連鎖によるテロが絶え間なく続く今、生き地獄の中で苦しみと憎しみを超えて、地球に住むすべての子供たちの未来が本当に平和なものであってほしいと心から願う広島・長崎の被爆者の願いこそ、今最も世界に発信していくべきメッセージではないかと思っています。


▲ 20年振りに再会した広島の被爆者・山岡ミチコさん
(最前列中央)と多国籍日本語朗読劇『トンボが消えた日』に
出演する8ヵ国のキャスト&スタッフ




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